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Top Interview|20xx年未来の働き方 代表取締役社長 久保田陽彦(後編)

2020.12.07 | George&Company,Inc.

|久保田さんが考える未来の働き方とは

青山:久保田さんが考える未来の働き方とはどのようなものでしょうか?先ほどのECの話でないですが、バーチャル空間(VR)での買い物も出始め、世の中に様々な変化が起きていますが。

久保田:もちろん、ECの発展同様にバーチャルの世界は進んでいくでしょうね。ただし、そういったもの(バーチャル)よりもっとリアル(店頭販売)が重要になるんだと思うんですよ。日本人の気質としてかゆいところに手が届くというか。

青山:日本人特有の買い物文化というのもありますしね。

久保田:それと、販売とは心を込めて接客し、お客様に喜んで頂き笑顔になってもらう、そこまでが「味」だと考えていますから。

青山:なるほど仰せの通りですね。ただ単にお客様に売って終わりではないですね。

久保田:ですので、プライスレスの体験はとても重要だと思います。今は、コロナ禍なので、なかなか店頭に立てないのですが、個人的にも接客が好きなんですよ(笑)。お客様とお話しをして、喜んで買って頂く。そういった店頭接客におけるプライスレスの体験はとても重要でしょうし。だからまたあそこで買いたいと次に繋がるんだと思いますね。

|時間、100年企業、200年企業

青山:物事にはメリット、デメリットがあり、例えば、ECは購入しやすいですが、お客様との(心の)距離は遠くなる場合もありますね。進化する一方で不便になることもあるかと思いますが、久保田さんはどのようにお考えでしょうか?

久保田:進化なのか退化なのか判りかねますが、間違いなく買い物に出掛ける際の往復の時間がかからない等で時間が余るでしょう。その「時間」を持った時に、どのように使うかという事でしょうね。無駄に使ってしまうのか、勉強に使い役立てるのか。今後はその差がより個々人で出てくるのかもしれません。

想い帰してみると、私の学生時代なんて時間が無尽蔵にあったように感じましたよ。ただ、この年齢になってみると、一日が長くなって、一年が短くなるんです。時間って皆に平等にあるもんですから、時間の使い方はとても重要でしょうね。また、コロナ禍においては尚更どのように向き合っていくのか考えないといけません。

青山:また、先代たちは関東大震災や戦争を経験してきた世代でもありますね。

久保田:そうですね。100年企業200年企業は何が違うのかというと、日本における200年企業は明治維新を経験しています。100年企業は第二次世界大戦を経験している。そして今、我々はコロナを経験しています。生き延びていくだけの体力を身に付けなけれればいけません。最後は体力ですから。

青山:仰せの通りですね。そういった意味ではお客様との信頼関係も重要ですね。

久保田:お客様には「嘘」をついちゃいけない。裏切ってはいけない。当たり前の事を当たり前のようにするだけなんです。例えば、お母さんが自分の子供に美味しいものを作る時、綺麗に手を洗いますよね。衛生管理をしっかりしましょうというのはそういう事なんですよ。お客様に対しても一緒です。

青山:その行為の背景には気持ちがありますね。

久保田:母親が子供に対してや、彼や彼女が恋人の為にビスケットを作る時、あの人に食べてもらいたいという「気持ち」が入っているわけじゃないですか。そういった気持ちの入ったビスケット1枚と、鳩サブレー1枚じゃあ味を含めて勝てないと思います。つまり、我々はそういう「気持ち」を込めてものを作る事を忘れちゃいけないんです。お客様に召し上がって頂き、笑顔で喜んでもらいたい。ただ作らされて作る場合って違うわけなんですよね。全ては気持ちの問題ですよ。そういう事を意識してやれるかやれないか。売って儲ければいいさでは駄目だと思うんですよね。

|未来はハッピーでしょうか?

青山:長々とお時間を頂きまして誠にありがとうございました。最後の質問ですが、久保田さんは未来はハッピーだと思いますか?

久保田:ハッピーだと思ってやらないとやってられないですよ(笑)

青山:(笑)

久保田:私は基本的にお客様の笑顔を想像してやっていますから。そういう「お客様が喜んで頂ける未来」を考えているので楽しもうという気持ちがあるんだと思います。それに、明日、何が起きるか分からないからこそ(未来は)楽しいんだと思うんですよね。

青山:ただ、世の中には将来の先行きに対して不安視をしたり、あまり良い将来ではないのではと考えたりする人もいますよね。人口減少、少子高齢化、経済規模の縮小等、様々な不安な要因があるのではと。

久保田:もちろんそういう事もあるでしょう。ただ、そういった事柄は必ずしも適切にアセスメントされていれば良いのですが。本来、適切な人口はどれぐらいなのか?真の豊かさとは何なのか?等。いたずらに不安になったところで仕方ないでしょうね。

それよりも、何が起こるか分からない明日にワクワクしながら、お客様の笑顔を楽しみにする、そちらの方が楽しいじゃないですか。

~Thoughts~

久保田さんの人柄はとても明るく、優しい人柄であふれていた。ただ、本質をついた言葉を発する時の眼差しは鋭く、世の中の道理を説く思想家のようにも映る。そこには本質的でわかりやすい原理原則の言葉が散りばめられていた。

100年企業を背負う経営者のプレッシャーは計り知れない。誰もが経験を出来るものでもないだろう。そして「鎌倉」という日本を代表する歴史的な場所で、地域経済や文化、伝統を守り、お客様を喜ばすことだけを考え続ける事の難しさがある。

常にお客様への強い想いを持ち続け、鎌倉というコミュニティを守り抜く覚悟を持った経営者の言葉はとても重い。世の中をシンプルに捉えた的確な言葉の数々は、「商い」を通し「人間」が生きていく事の「道」を追い求めているようにも映る。

「伝統」と「革新」。変わらないモノと変えていくべきモノを正しく判断し、顧客を創造する姿はまさにイノベーターである。インタビューを終え、暑い夏の道すがら、海岸から吹く冷たい風が気持ち良かった。また鎌倉に来たいなと、そう感じた。

久保田陽彦|株式会社豊島屋 代表取締役社長。慶應義塾大学出身。銀行勤務を経て、1987年に家業である豊島屋に入社。鳩サブレーの工場からはじまり、十数年間は製造の現場に身を置く。1998年に本店・本社の建て替えにあわせ本店長に就任。2008年に代表取締役社長に就任。