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Top Interview|20xx年未来の働き方 代表取締役社長 久保田陽彦 (前編)

2020.12.07 | George&Company,Inc.

江ノ電・JR鎌倉駅東口で降り立ち、鶴岡八幡宮の方向へ5分程歩くと、真っ白な建物と「鳩サブレー 豊島屋」の看板が見えた。1894年(明治27年) 8月10日創業。明治~大正~昭和~平成~令和の時代を超え、125年もの月日が経っても今なお愛され続けている鎌倉の銘菓「鳩サブレー」。鳩サブレーを中心に、和菓子や洋菓子、パンの製造販売の他、和風喫茶、カフェ、軽食喫茶を展開しているのが株式会社豊島屋

現在、豊島屋を率いている4代目は久保田陽彦代表取締役社長だ。大学を卒業後、銀行勤務を経て、豊島屋に就職。工場での菓子製造を10数年に渡り経験し、その後、本店での店長を務め、2008年に代表取締役に就任する。

株式会社豊島屋は関東大震災、第二次世界大戦と幾多の困難を乗り越え、今や鎌倉の銘菓と謳われる「鳩サブレー」を展開する和菓子屋となる。「伝統とは革新の連続」、「当たり前の事を当たり前のようにやるだけ」、「お客様に笑顔を届けたい」、125年の歴史を背負っている久保田氏の言葉は、日々のお客様への感謝の気持ちと、誠実なモノづくりの姿勢が感じ取れるものだった。

2014年、鎌倉市が海水浴場3カ所のネーミングライツを公募した際、豊島屋が命名権を購入したが(命名権は年間1200万円。豊島屋は鎌倉市と10年の契約を結んでいる)、購入するも従来通りの名称を残したままにしたことで「鎌倉」の文化を守った形になり世間から脚光を浴びた。また「鳩」をモチーフにした文房具やグッズを展開し、最近ではInstagram(hato.0810.36)で、日々、豊島屋の和菓子や鎌倉の歴史等をアップし話題も呼んでいる。

伝統を守りつつ常に新しい取り組みで攻める経営を推し進める久保田氏。鎌倉というコミュニティを守る事で地元から愛される企業であると同時に、インバウンドで海外から足を運ぶお客様もいるというのは、ある意味グローバル企業でもある。100年企業が追い求める伝統と革新とは。最前線でお客様へ笑顔を届ける久保田氏が考える未来の働き方とは?

傲ってはいけません。企業は、社会によって存在させてもらっている存在なのです。

ピーター・F・ドラッカー

|鎌倉と共生する老舗企業「豊島屋」

青山:久保田さんは大学を卒業と同時に豊島屋さんへ就職をされたのでしょうか?

久保田代表取締役社長(以下、久保田):大学卒業後は銀行へ就職をしました。4年ほど勤め、その後、豊島屋に入ったんですよ。最初の10数年は製造現場を経験し、その後、本店で店長を務めました。2008年からは代表を務めております。

青山:入社された頃というのは事業が大きく拡大されていた時期だったのでしょうか?

久保田:明治創業で戦前まではそれなりに安定して経営をしていたのですが、戦争で全てを失って、3代目が一から立て直したようなものなんですよ。とても苦労をしていた時期でもあります。

青山:そうだったんですね。製造する際は手作業と機械の両方を使っているとお伺いしましたが?

久保田:機械で出来る事は機械でやっていますね。ただ、今時の菓子メーカーというのは機械ありきで作るんですよ。大手さんは特にそうなんですが。うちは元々あったもの(菓子)をどのように機械で作るかから考えるんですね。私がよく言うのは「機械と対話しなさい」と。つまり、(人も機械も)お互いが創意工夫しあおうと。

青山:あくまでも機械は手段でしかないですね。

久保田:例えば、重いものを持ち上げるとかは機械の方が断然優れています。ただ、人間の手でなければ出来ない事もたくさんあります。よく塩梅(あんばい)と言いますが、人はその時の様々な状況に合わせてフレキシブルに対応しますからね。

青山:なるほど、とても興味深いお話しですね。すべからく機械だけというのにも限界があるんですね。製造現場をご経験された後は、本店での店長をされましたね。

久保田:本店の改修とともに店長になりました。その後は経理をみたり、販売、営業活動、所謂、なんでも屋ですかね。

青山:記事でも拝見しましたが「鳩」の文房具やグッズがとても評判ですが、久保田さんご自身ですべてやっているんですね。

久保田:私しか文房具をやらないのは、弊社はあくまで「菓子屋」ですから(笑)。まずは菓子の事だけを考れなければならないし本業をしっかり出来ない人間は他のことも出来ませんからね。

青山:代々受け継がれている「枝葉は枯らしても、幹は枯らすな」というお話しですね。

久保田:そうですね。本業を一所懸命やることが大切なんです。時には無駄も必要だとも思いますが、経営に大きなインパクトがない程度でですね。何より文房具等のグッズを開始したのは、あくまでも「鎌倉」に来て欲しいという想いがあるんです。だから本店でしか売っていないんですよ。それが鎌倉にくる事への付加価値に繋がれば嬉しいじゃないですか。

「お客様をお得意様に、お得意様をご贔屓様に」。お得意様は「豊島屋は良いよね」、ご贔屓様は「豊島屋じゃないとダメだよね」それによって鎌倉へ足を運んでくれれば本望なんです。それと、こういった限定グッズは若い世代にも知って頂けるようなツールにもなりますから。豊島屋のファンを増やしたいんです。

青山:そういった新しい仕掛けは常に考えていらっしゃるのでしょうか?

久保田:正直、現在はコロナ禍というのもあるのでなかなか難しいですね。例年であれば、8月10日(ハトの日)はイベントを大々的にやってたのですが、今年はやっていません。ただ、ECに関しては今後、組織として戦略的に取り組んでいこうと考えています。

青山:また、最近始められたInstagramも久保田さんご自身がすべて手掛けているんですよね?

久保田:そうなんです。とてもプレッシャーですよ、毎日が(笑)。常にストックはしているんですが。ストックがなくなりそうになるとドキドキしますね。直接お客様とやり取りをするのでとても気を遣う仕事なんです。

青山:今後はより一層新しい仕掛けを加速させていくのでしょうか?

久保田:ECのようなネット上の仕掛けは推し進めていくつもりです。ただ、安易に営利的な儲けを追求するだけという気持ちはなく、いかに地元に還元するかということを考えています。常に皆様には鎌倉に来て頂きたいと思っています。鎌倉と一緒に成長したいと思っています。

|由比ガ浜(ゆいがはま)材木座(ざいもくざ)腰越(こしごえ)海水浴場

青山:海水浴場の命名権に関しては、命名権を購入するも敢えてそのまま名称を残した事で、大きな注目を集めましたね。

久保田:あんなに注目を集めるとは思っていなかったんですよ(笑)

青山:そうだったんですね(笑)

久保田:ただ、鎌倉の海水浴場をそんな簡単に変えてはいけないという想いがあり、それが当然だと。当たり前の事をしただけの感覚なんです。ですので、あの時(発表の日)ちょうど定休日だったんで、役所までぷらぷらと呑気に出かけて行ったら大勢のマスコミがいて驚きました(笑)。

青山:なるほど(笑)

久保田:基本的に、ネーミングライツというのは公共性の高いものは避けた方が良いと思います。その土地の伝統や文化を壊しかねない。建物とかならまだ良いかと思いますが。

青山:結果として、鎌倉の伝統文化を守る事に繋がったんですね。

久保田:伝統って守るべきものと変えるべきものがあるんですよ。守るべきものは守り、変えるべきものは大胆に変えていく必要がありますね。それを見極めることが大切ですね。

久保田:弊社は和菓子屋ですので基本的には「洋」のイベント関連のものはやりません。ハロウィンですとか、洋の暦に準ずるもの。

青山:何故でしょうか?

久保田:当たり前ですが、日本人なので「和」の暦ですよね。「洋」のイベントに乗っかるのは商売として売り易いけれども、まずは「和」があって、「洋」だと思うんですよ。また、「本物」が分からないと、モノの良し悪しもわからなかったりするんですよ。大福なんかもそうですが、例えば、本来餅菓子というのは「朝生菓子」なんです。

青山:「朝生菓子」ですか?

久保田:朝作ってその日のうちに食べる菓子を言うんです。最近そういった大福が減っていますけど、本来もちは1日経ったらかたくなってしまうものです。私なんかは2つ買ったら、最初の一個はそのまま食べて、もう一つは平たくつぶして冷蔵庫に入れておくんですね。で、翌日にそれをあみで焼いて食べると美味しいんです。昔の人はその食材を活かす形で工夫して食べてたんですね。

青山:なるほど。本来の食材そのものを理解する事の重要性ですね。現代の食べ物はすべからくそのさまざまな添加物や加工が施されていて、マーケットに流通させる為に食材そのものとはかけ離れた形になっていたりしますね。食べ方一つも工夫するというのはとても重要ですね。

久保田:要はなんでもそうだと思うんですが、「型」を知らずして何もわからないでしょうと。「主流」を知っていてこその「亜流」なので。亜流ありきで良いね、悪いねは違うなと感じますね。

青山:仰せの通りですね。

久保田:あと私がよく言うのは、普通、食べ物というのは目で見て、鼻で嗅いで、自分で考えて口で食べるんですが、現代人は「耳」で食べている人が多いのかなと。

青山:つまりは?

久保田:誰かが美味しいと言った、有名人が好きだから食べていたりと。本来、食するという事は自分で美味しいかどうかを見極める事だと思うんですよね。

青山:まずは自分が経験する事はとても重要ですね。

久保田:日本における洋菓子は100年そこそこの歴史。日本における洋菓子は歴史から考えると和菓子にはおよびません。その意味で洋菓子は良い意味で何でも出来るかもしれませんが、和菓子は伝統的な製法とかが存在している分難しいかもしれません。

青山:なるほどそうですね。

久保田:私は基本的に自分の舌を信用しています。もちろん様々な情報は参考にしていますが。

青山:生き方としても他人の評価に振り回されず、人と自分を見比べるだけでなく自身に期待した生き方というのも重要でしょうね。

久保田:働くうえで自分自身に自信を持つ必要はありますね。ただ、あくまでも我々は商人ですから、お客様がいらっしゃって初めて存在しています。だからこそお客様に感謝をするんですね。こちらから主張過ぎる商売というのも違うと思うんです。なんでもそうですが、自分自身が責務を果たして初めて発言が出来るというか。

青山:仰せの通りだと思います。

久保田:それに働くという事で言えば、あらゆる仕事に共通する事だと思いますが、ただただ言われたことをやっているのは楽なんですよ、ある意味。辛いだろうけど「自分」で考えるから楽しいと思うんですよね。

青山:なおさら経営者としてのご苦労は計り知れないかとも思いますが。

久保田:私は「つらい」とか「苦しい」とかは言わないようにしています。従業員に対して。それを言ったら彼らが可哀そうでしょう。世の中を広く見渡してみれば、私より苦しい人なんて五万といますよ、きっと。それを考えたら、簡単に弱音なんて吐けないでしょうし。申し訳ないですよ。それは私の信念かもしれないですね。

|未来の豊島屋と経営者の視点

青山:豊島屋さんが考える未来とはどのようなものでしょうか?

久保田:まず前提において、当たり前のことを当たり前にやることだと思うんですね。また、我々は食品業界ですから、衛生管理を徹底的に努めるのも当たり前ですね。例えばESGのような地球環境保全の活動も世の中の動きとある程度合わせていかないといけないでしょうね。もちろんお客様があってでの前提ですが。企業が出来る最初の社会貢献は経営で黒字にして納税することだと思っています、それが出来てから次に何に貢献出来るかを考えていけば良いと思います。

青山:とても共感いたします。

久保田:「働き方」ももちろん新たな働き方を取り入れ、働き易く変わっていくでしょうね。もう一つは先の世の中というのはどうなるかわからないですから、経営者としてはいかに素早くどのように適切に対応できるかが重要ですね。

青山:つまりは?

久保田:ぬるま湯に浸かっていてはダメで、常に世の中にアンテナを張りながら判断力を養わないといけません。常識が変わっていく中で、どれが本当なのかを判断する力。正解が何か誰にもわかりませんから。

青山:本物をしっかりと見極める力ですね。

久保田:それと、経営者という立場は、例えるならば、映画でいうところの監督のようなものなんです。様々な角度からのカメラアングルを常に考えている。外側から撮るのか?ひょっとすると内側から撮った方が良いのではないか?どの撮り方が一番良いのだろうかと頭を悩ます。最後に、「今」一番良いアングルで撮るのを決めるのが社長の仕事です。色々な見方をしないといけないんですよ。

そして、最悪のシミュレーションをし、最善の方法を採るんです。

<後編に続く>

・久保田氏が考える未来の働き方とは?

・未来はハッピーか?

・鎌倉観光公式ガイド|鎌倉市観光協会

久保田陽彦|株式会社豊島屋 代表取締役社長。慶應義塾大学出身。銀行勤務を経て、1987年に家業である豊島屋に入社。鳩サブレーの工場からはじまり、十数年間は製造の現場に身を置く。1998年に本店・本社の建て替えにあわせ本店長に就任。2008年に代表取締役社長に就任。